近くを走る誰かのクルマをスマホで呼べる、スマート送迎アプリCREW。謝礼重視の料金形態で、価格を抑えた「新しい移動手段」の構築を目指す。現在は、夜の都内・与論島で展開中!
先日、アメリカのライドシェアサービスLyftとUberが相次いで上場したことが話題となりました。都市・地方それぞれの交通が抱える課題に対するソリューションとしてのMaaSは国内でも広がりを見せようとしています。
日本のモビリティスタートアップの一つに、”CREW(クルー)”があります。
CREWは、「乗りたい」と「乗せたい」をつなぐプラットフォームで、ライダー(乗客、サービスの利用者)は近くを走るCREWパートナー(ドライバー)とマッチングし、好きな場所まで「送ってもらう」ことができます。謝礼(チップ)は任意であるという点も、アメリカのLyftやUberと同様です。
それでは、どのような点がアメリカの2社と異なるのでしょうか。それは、簡潔に言うと、プラットフォーム側の手数料が非常に低い点です。
CREWの基本的な料金形態において、ユーザーが払う必要のあるのは、「ガソリン代の実費+ システム利用料のみ」(1ドライブ20円 + 1分あたり20円) で、『謝礼は満足度に応じて決めてOK』となっています。LyftやUberの場合は、あらかじめ走行距離から金額が算出され、乗車前に金額の確認をした上で利用します。ライダーは、乗りごごちや、運転手の態度、ドライブの仕方など、サービスの質に対して、チップを支払いますが、チップなしの人もいれば、非常に少ないチップで済ませる人も多いように思えます。そもそも、LyftやUberのサービスでは、あらかじめ決まった金額が料金の要となるので、チップ(謝礼)を重視、もしくはこれに依存したサービス形態ではありません。
一方で、CREWは手数料がきわめて低く押さえられているので、支払い金額はよりいっそうライダーの乗車後に決定する謝礼に依存します。例えば、阿佐ヶ谷駅から千歳烏山駅までの18分間を乗っても、実費部分は583円ですみます(下の画像の2枚め目ご覧ください。実際にはライダーが+1500円の謝礼を支払ったようでした)。
日本では、東京都内の一部地域のPM8:00 - AM03:00の時間帯と、鹿児島県の一部でサービスが利用可能です。夜間時間帯、特にPM8:00-AM3:00という時間帯は、電車が混雑していたり、終電が終わっていたりします。この時間帯は、タクシーを使いたくても料金が高いので、なかなか利用できない人も多いと思います。しかし、CREWであれば、夜間であってもタクシーよりも安い価格帯で、移動できます。また、ドライバーとライダーとの間で、世間話をしていれば、「すこしあたたかい時間」を体験できます。
ライダーが支払うのは、実費と、手数料と、謝礼(任意)です。実費は、ガソリン代と高速料金の費用で、ドライバーに支払われます。任意の謝礼は、乗車後にライダーが価格を決め、こちらもドライバーに届きます。手数料は、プラットフォーム手数料として運営会社に支払われます。
支払い価格の実際例を見てみましょう。公式サイトで、紹介されています。
都心部の夜間ということですが、1分という超短距離の移動の場合から、30分を越えるものまであります。
手数料も、2000円以上の場合から、0円の場合もあり、ライダー支払い金額は様々です。
0円で済ませれば、本当に安い移動手段になりますし、謝礼を払ってもタクシーより安くすることは十分できそうです。
前述の通り、CREWのサービスの提供範囲は、夜間時間帯の東京のほか、九州の一部が挙げられます。現在、CREWが展開する地域は東京の夜間時間帯のほか、九州の一部地域とされています。深夜も人の移動がある東京であれば、CREWのようなサービスに需要がありそうなのは一目瞭然ですが、なぜ九州と思うかもしれません。CREWによれば、タクシー台数が少ない地方こそCREWのようなサービスの重要性が発揮されるようです。CREWは、このような地域での展開を、ローカル・モビリティ・プロジェクトと命名しています。CREWのウェブサイトによれば、「ローカル・モビリティ・プロジェクト(Local Mobility Project)は「日本ならではのモビリティの未来へ」をビジョンとして掲げ、日本各地のモビリティ課題を解決していくアクションです。地域ごとの異なる課題を1つ1つ解決」することを目標として挙げているようです。CREWが地方で検証実験をしたのは、鹿児島県 与論島と、長崎県 久賀島です。
とくに本日(6月12日)、昨年の実証実験から再び、期間付きでサービスの提供を開始した、与論島(ヨロン島) 。
与論島といえば、鹿児島県南端の島で、絶景の観光地という印象を持っている方が多いかもしれません。
しかし同時に、この島は、公共交通機関の不足という問題を抱えています。小さな島とはいえ、バス1路線、タクシー8台と、公共交通機関だけでは観光客の移動需要を満たすことが難しい状況でした。
そこで2018年8月に行った1ヶ月間の実証実験では、与論島にて観光客の移動をサポートし、約130kmの総ライド実績を挙げました。与論島は一周で約21kmですので、CREWドライバーとライダーがおよそ6周分の移動をともにした計算になります。実証実験時のドライバーの登録者は、旅館の家主さんや役場の方、スキューバダイビングのインストラクターなどがいたそうです。
そこでCREWは、一般社団法人ヨロン島観光協会と連携を持ち、2019年6月12日から10月末(予定)まで、定常的な提供を試み、昨年よりも期間を長くして継続的にサービス提供を行っていくと発表しました。
「日本の離島で求められているのは、UberやLyftといったしっかり商品化された交通というよりも、助け合いなのではないか」という問いが立てられているのかと思いますが、どう検証され、どういった結果が得られるでしょうか。
6月12日 POTENTIALIST 記事作成チーム
出典・参考
画像1,2,3については、CREWのウェブサイトから利用。動画1は、CREWのYOUTUBEチャンネルから埋め込み。画像4は、WIkipediaより出典。
時事ドットコム(2019/6/12)「モビリティ・プラットフォーム「CREW」、与論島にて定常的なサービス提供を開始」
Response.jp(2018/8/17)「【MaaSベンチャー】日本人が作る日本のライドシェアを目指す…Azit 須藤信一朗氏[インタビュー]」